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Friends

by 綾戸智恵

綾戸智恵による曲紹介 & 糸井重里さんによるライナーノーツ

1.Take Me Home Country Roads (Bill Danoff/John Denver)

”Almost geaven~”と始まります、あの有名なジョン・デンバーの曲「カントリーロード」です。

ふるさと なすがままに 私は身を委ねる あの山が あの川が 私を呼んでいるようだ さあ 連れて行っておくれ あのふるさとへ 一歩一歩踏み込むようなクワイヤーの声、ただただ私は迷いもちゅーちょも無く、はい。ゴスペルです。

この曲をやろーと思ったきっかけは早朝の散歩の時です。穂高の山道が1ヶ月前にはコブシの花が白く咲き、春の始まりを知らせていました。なのに今はもう緑ばかり。それに山の頂上にはまだ雪が少し。一生懸命溶けないようにがんばっていたような、、、。でも夏が来ると、、とか思うと、歌わずにはおられませんでした。やっぱり3びょーしかなぁ。

2.Spinning Wheel (David.C.Thomas)

バタッ!とムードは変わるさー。B,S&Tのヒット曲「スピニング・ホイール」。杉本チャボのアレンジなかなかでしゃろ。もち彼のベースでスタート。カッコイイー。70年代ヒットのロックがグループ。ドライヴ大変大変。

”Narrow highway ~” ここのところでハイウェーが見えるよ!曲が(オルガンの音効果)ドライヴしてるみたいやねん。そして”One Two Three Four catch a painted Pony on the spinning wheel Ride ide ide ide.........”

3.Here, There And Everywhere (John Lennon/ Paul McCartney)

ここでナイステンポ。曲はビートルズのHere, There and Everywhere。ええラブソング、まず一声”here"。この曲を4Beatで歌いたかったんです。23才のピアノ森下、スイート!イキなソロパートや初々しさと、どことなく冷静さが見え隠れする感じが思わず私のスキャットへと誘いまんなぁ。これほどにまで愛満ち満ち、どこもかしこも、ね、バラードに収まらないhopingがわき出しそうになりエンディングもフェードアウト。”ここにいるよ ほらほら ほらほら ・・・”それにしてもビートルズはすごい。 なんでこんなメロディーが作れるんやろうねぇ。

4.Superstar (Leon Russell/ Bonnie Bramlett)

カーペンターズが歌ったレオン・ラッセルの曲「スーパースター」や!今回は野生児エトーとデュエットです。レコーディングは1TakeでOK!もちろんサビのところがヤマなんですが、私としては大きなリズムで自由に舞うように”You guitar it sound so sweet and clear but you're not really. it's just radio ””and play your sad guitar” そして”baby baby ~”と歌いたかったんです。

終わりの近くで”One more time give me that!と叫んでるのはエトーちゃんに言いたかった言葉でした。どお訳しましょうか、”エトーあんたはスーパードラムや、飛ぶでぇー”こんな感じかなぁ。素晴らしいドラム。

そしてふつうなら”Baby Baby oh Baby I love you I really do”となるんやけど、Oh Baby でじゅーぶん、I love you で言えたように感じたのであえて言わずに I really do。でも2回目の Baby Baby のところでは、やっぱり I love you ~ L Really so ~やね。

P.S. 伊藤プロデューサー!マスタリング(音決めの最終作業)の時エンディングのピアノがなくなるまで最後まで切らずにしておいてくれてありがとう。I really doという歌詞をしょーめいしてくれる音なんです、あSピアノ最後の音は。さすがに参りました。

5.The Man I Love (Ira Gershwin/ George Gershwin)

突如、”カラコン”何これ!そおです。ワガン登場!セネガルのパーカッション、ワガーン!これガーシュインの「The Man I Love」!すごいバンドでっせー。杉本チャボ、ずーっと同じライン。野生児エトーとスマイリーワガン、(ドーンドヅーンダドドンデェー)(ドーンドヅーンダドドンデェー)(ドーンドヅーンダドドンデェー)、 歌詞が聞こえる聞こえる。おーじょーしまっせ!Someday, he'll come alone, The Man I Love ~ ドンドズドド ドンドズドド ドンドズドドー。五臓六腑にしみまんなー。

そして最後は”まってるでー、私の彼氏!”(ドンドズドドードンドズドドー)あぁー、とおり過ぎてゆくーーー。

6.Every Breath You Take (Sting)

これはまた、ポリスの「エブリ ブレス ユー テイク」。アヤドさーん、やっぱり女の人だったんです。”あたりまえや、40おんなのエブリブレスを聞くのじゃ、「ハーフーハーフー」”少し違うんちゃうの!まじめに書きます、はい。

この歌詞、最高です。Ev'ryがずーっと頭につくんですよね、だからこのEv'ryの後がよく聞こえるんやね。様子がすごーくイマジネーションできます。これには俗にいうサビが二つもあり、またここの詞がええんよね。” ねぇ、わかる?どんなに心が痛むのか あなたが去って以来 心は冷たくなるばかり 夢の中も あなたしかみえない 涙もとどまることを知らない ただ見つめていたいのよ” この歌詞だけでもすごいのに”Baby ~” と叫ぶとブイーとソプラノの音、歌詞に応えるように吹きまんねや、いや参りますわ。そしてエンディング、川島やめて、たおれそー(やめないで~~~)。泣かしよんで!たまらん!

I'll be watching you!Hear me!

7.Ain't No Mountain High Enough (Nickoras Ashford/ Valeric Simpson)

さあ、再びクワイヤー出現。 この曲は大好きなアシュフォード/シンプソンさんの曲「エイント ノー マウンテン ハイ イナフ」(この人はN.Y.時代、私のいた教会によく歌いに来たんです。長い髪が印象的でしたで)。

とても楽しくみんなと歌えたよ。ピックアップで歌った人たちは、当日までどこをどー歌うのか知らされてなかったんよね。歌詞の言葉を伝えたい一心、素敵でした。いつも練習で言うんですけど、私はクワイヤーには鎖(音程とかリズムとか)をつけず、”歌詞を生き物だと思ってうたってごらん”とアドバイスします。

”My love is alive! Deep down in my heart. Although we are miles a part if you even need ~~~…”

この部分はひとつのマイクにみんながぞくぞくと伝えたいことを歌いに走って群がる、そんな感じ(実際にマイクはあえて一本でやりました)。とても技術的には上手とは言えないけど、裸で本心をありのまま迷い無く歌い切ってるね。このスピリットはすごいよ。とても書き尽くせない。そんなものを感じていただければと思います。それがゴスペルじゃないかなぁ。歌い終わった後すぐもみんなの顔、とて最も美しかったです。CDを聞いているみんなも裸で耳(肉)じゃない耳(心)で聞いてみてください。スタジオにいたみんなが、私が、バンドが、真横にいるみたいに聞こえるでしょ?

8.Sentimental Journey (Bud Green/ Les Brown/ Ben homer)

CDも中盤を越えました。ここで一杯いかが?お馴染み「センチメンタル ジャーニー」。Let's リーラックス イエ~~~って感じかなぁ。弾き語りやね。「チーボー、トロンボーンやってよ」とイトープロデューサーの声。言われてやらないアヤドじゃないのは、みな、ごしょーち。あ、やってしまった。笑ってよね。

9.Caravan (Irving Milles/ Duke Ellington/ Juan Tizol)

リラックスのあと、またもやあのチャボのベースの音。

デデラ デデラ デデラ デデラ

そこへ再びワガン登場!エトーすでにまゆ毛が・・・。スイート森下もズワ~~ズワ~~。

サプライズ、ボヘ~~~ボヘ~~~。エリントンのキャラバン、シルクロードどのあたりでしょうか。なんとなく砂漠の上をジュータンが飛んでるみたいでしょうか。私、アヤドはそのジュータンに乗り今、まさしくチャボ、スイート、野生児、ミスターセネガル、サプライズ5人を乗せたキャラバン隊を見ながらうたってまっせー。

Night~~~あ、エトーの乗ってるラクダにはキレーなおねーちゃんがえらいたくさん同乗してます。This is so exciting. You are so inviting! それを見たサプライズ川嶋が吹きまくっております。なんやら音も「ワレーチョチョチョチョっとワシもいれてくれー」私にはそんな風に聞こえます。すいません。

P.S. エンディングとても気に入ってます。エトー、ありがとうね!そしてひろかねちゃんナイスです。

10.La Mer (Charles Trenet/ Albert Lasry)

森下くんのイキナリ一発イントロ、グルって始まる「ラメール」。シャンソンですがな。

beyond Sea という英語バージョンがありますが、ジョージ・ベンソンがやってるよ、とイトープロデューサーが教えてくれたので、さっそく聞いてみたくなりCDを探してみました。そんなところ私はホテルでのライブの仕事で地方へ。同行したケンテックの琴谷さんに「この CD かけて」と頼むとぐーぜん「あ、明日ベンソンコンサートでぼくPAなんで見に来ますすか」と嬉しいご招待。多摩のコンサート会場に着き、座ったとたん、”Somewhere ~”ゾクー、なんというぐーぜん。そこはアヤド、これを必然にしないと。ならばレコーディング決定!琴谷ありがとー!

P.S. シルブプレー

11.Big City (Marvin I.Jenkins)

2枚目のアルバム「ユアソングス」に入っていたビクター・ルイスの「グレートシティ」に続きまたもやCityもの。こんどはマーヴィン エル ジェンキンスの「Big City」。カッコイイ曲ですわ。とくにCome on to the City!ここがエエよね。トコちゃんのアルバム Tac Ticの「It's There」もCome On!そしてみなさんもCome On!そして”I've got a men”のところも好きです。そのあとエトーちゃんタタタとドラム、嬉しくなります。エレクトリックベースとエレクトリックピアノがCity!って感じ出してるよ。テナーが乾いていてこれもまたCity!

P.S. 最後のトーキョー、ナゴヤ、オーサカ、フクオカ、シミズは1999年のツアー地。そしてこの曲をプレイしているみんなの出身地はフナバシ杉本くん、トヤマ川島はん、スズカエトーちゃん、ヨナゴ森下くんと綾戸コーベ神戸在住です。本当はぜーんぶ、もっともっと言いたかったけどね。

12. Round Midnight (Bernie Hanighen/ Cootie Williams/ Thelonious monk)

なんだこのイントロは別世界へでも連れて行こうっての? ”ねぇ、あの夜 おー あのあの夜! 悪夢のようなあの夜の出来事 頭から離れへんよ 夕食をとってる時も 朝食をとってる時も 眠りに入った時も ああ 消し去ってしまいたいほど でも どーしてもよみがえる あの夜 ラウンドミッドナナナナナナナイト it begins to play ~” おい森下!こんなアレンジよーやるよ。私がもやもやっと説明したイメージをこんな風に音にしてくれました。演奏中、スイート森下の口は”口の字”のまま。エグー。エトーのまゆ毛は”逆ハ”のまま。デープー。そしてチャボの口は”ヘの字”のまま。ヤメター。でも一番凄かったのにやっぱりアヤドの目尻。グシャグシャー。

P.S. 夜中に一人で聞いてみて、あのピアノの音。キまっせー。演奏の後、見に来てくれた内田先生が私の歌詞カードをぜひ欲しいと言われてびっくりしました。どんなか、皆さんも見たいでしょー。ウッシッシ。

13. Autumn Leaves (Johnny Mercer/ Joseph Kosma)

フィールイン フィールアウト 「枯葉」です。おいしーところだけ皆さんにどおーぞーってかんじです。

レコーディングであろうが私達がやればたちまち生ライブになってしまうというわけです。ミキシングルームが客席に変わり、スタッフのエンジニアはイエーイエー、It's Party! サックスとの掛け合いの後すぐ、The Fallin leaves! 歌詞が聞こえるやいなや、プップップッ↑ピー、サックスゴキゲン。But I miss you Must of オオオオオール my dear。このオオオオオ、チャボが真似しまんねんや。 皆さんもご一緒にオオオオオール。

14.EL CONDOR PASA(IF I COULD) (Paul Simon/ J.Milchberg/ D.A.Robles)

さぁー、アルバム最後の曲、「エル コンドル パサ」!スタッカートした腕が私の頭より高いところにとびます。ペルーのフォークソングなんですが、ポール・サイモン”If I could”というタイトルで歌っています。アヤドのレコーディングの中で一番苦労した曲かも。珍しくTake5~6ほどやったと思います。

この曲をやろうと思ったのは母の誕生日会をやろうと藤野の友人が集まってくれてガーデンパーティーをしたことがきっかけです。ちょーどその日はトコちゃんの追悼コンサートがオーチャードホールであるという前日で、不思議な気持ちで、、なんともどう書けば、、。そのパーティーの場所に”藤野モンド”という3人組がいて、ケイナとギターでこの曲を母にプレゼントしてくれたんです。とにかく母が生きていることにこんなに感謝した誕生日は初めてで。とても演奏が嬉しくて、私も歌いたい、と思ったんです。

長野県の川にカヌーに行ったとき、途中でひと休み川べりに寝そべると、2匹のトンビが寄り添いながら飛んでいました。するとどんどんイメージが湧き、イントロ、歌い出し、山、そしてエンディングすべてこんな風に表現するはめになってしまいました。ペルーの山々に飛ぶコンドルではなく、穂高の空に飛ぶトンビを見て、はかなさと強さと、涙が出るほどの喜びと悲しみで包まれてしまった。イントロはじっと空を眺め、静かに下を見るとそこには白と黒の鍵盤。”I'd rather be a sparrow”ブバン ピアノです。

あとはただただ、”If I could”です。 A wayーと、とーくに見えてくるあまりにさみしい音。そしてエンディング。It's Sad.Sad.Sad. ありがとう。みなさん。

ANOINTY MASS CHOIR:

中田理恵 杉本弥栄子 鷹栖知可 吉田千夏 喜多明乃 斎藤千恵子 中川明子 井波志保子 清水朗子 小松邦江 村梶聡美 村田由紀子 窪田敏子 中村あずさ 中野麻紀 中村朋治 斎藤英樹 松井渉 野村雅美 松村京美 西友美 坂井聡美 吉村彩子 河野和子 西川善雄 石村和子 本田智奏 斎藤綾子 萩原陽子 吉田紀子 川口由佳理里 堺智美 川原美由紀 梅村信行 飯田篤 藤岡麻子 糺いくみ 高山藤江 神田登美代 村井ゆかり 榊理恵 中川享子 鈴東桂子 光井さくら 伊藤知枝 上田麻喜 和気早苗 村田哲也 宮上明与 斉藤菜穂子 椎名葉月

まとめ:

アノインティのみんな、とても素晴らしかったです。

そしてリハーサルにいつもどうぞと言ってくれるアルフィー、ありがとう、力武もありがとう。

Englishにあってはいつも戸倉ナイスヘルプ、ありがとう。

そしてEWEのアイリッシュ、ガリさんありがとう。

フレンチのマヤちゃんメルシー。穂高の自然、いつもありがとう。しゅんちゃん、お寿司おいしかったよ。

児山さん、奥様も本当ありがとう。ステキに写真を撮ってくれたヨダさん、イソジーありがとう。

アシスタントのサイトー、東京クワイヤーがんばってよ。

ニューフェイス、ユカちゃん、マスカラつけてるでー。

そしてひろかねさん、あなたの回復を待った甲斐がありました。とても満足です、ありがとう。

ずっと元気でいてね。

そしてゴスペル2曲も後藤さん忙しいのにありがとう、また会いましょう。

いつも音響ハウスのみなさん、ありがとう。

イトーさん、まぁ、いつもどえりゃープロデューサーダワ。また歌ってまったわ。

レコーディング中も「コンサートのチケットは完売」のニュース、頭の中が熱くなります。

ミュージシャン森下君「ラメール」とても素敵だったよ。エトーちゃん、あんたって人は嬉しいわ。川嶋さーん、私もあなたも死にそこない、共に白髪の生えるまで。ありがとーワガンちゃん、素敵な出会いです。これからも一緒にやろーね、ありがとう。あなたの言うとおり素敵な再婚が???預言者ワガンでした。杉本、いつもはふざけあってるけど本当にありがとう。あなたがいなかったらできなかった曲、たくさんあったよ。ありがとーね、愛してるよ!

そしてEWEのみんな、ありがとー。また事務所でね!

日野よーこちゃん、顔みてるだけでリラックスするよ。

ライナーノーツ糸井さん、あまりに素晴らしい、ありがとう。今度は一緒に釣りに行きたいよ!

そして内田先生、あなたはとにかくおられるだけで、私の心はなごみます。ありがとう。

長いこと留守してゴメンね、イサくん。エエアルバムやで。京都のタカミちゃんの撮ったイサくんの写真入れとくよ。写真、ありがとー。

おかーちゃん、ありがとう。みやげもって帰るわなぁ。

さぁ 5枚目5枚目 いくで!

綾戸智恵

綾戸智恵は、消えて顕れる。

 綾戸智恵さんのステージを味わった人々はそれぞれの心の中に、それぞれの土産を渡されたような気持ちになって、帰り道の足取りがゆっくりになってしまう。

土産が重くてうまく歩けなくなるのだ。

 ぼくも綾戸さんのステージに出かけるたびに、いつもなにかをもらって帰る。毎回おなじでないもので、もしその都度の気持ちをちゃんと記憶していられたら、じぶんの胸のなかにすばらしいコレクションができあがっていくのだろうと思う。

 お土産のなかには、「謎」というプレゼントもある。いままでの僕自身の経験のなかにはないなにかを感じてしまったときには、それは「謎」という開けられない子箱のようなもののなかに封じ込められてしまうのだ。なぜ、ぼくは、あの歌を聴いて、歌詞にはまったく関係のないあの人のことを思い出してしまったのかとか。あのようにお会いするごとに美しくなられる歌手(本人が読むときのための表現です)はかつていただろうか、とか。ま、いろいろあるわけですけれどね。ひとつだけとても大きな「謎」が手つかずで残っていたのです。

 それは、表現における「自己」の在りようの謎だった。

歌を歌うことや楽器を演奏することだけでなく、表現には表現する主体の意思がつきまとう。「ワタシ ヲ 見テ」という叫びのようなものかもしれないし、じぶんだけの表現を突つきつめていくうちに醸し出される個性なのかもしれない。

 綾戸さんは、ごぞんじのとおり、超をつけていいくらいに個性の強い歌手だということになっているし、ある意味では強すぎるくらいにアクの強いボーカリストではある。

 しかし、その誰でもが認める事実とは逆に、

歌っている時間の綾戸智恵は、ぼくにはどこかに消えてしまっているように思えることが多いのだ。

印象がか弱いということではないことは、わかりきっている。天をつく筍のように、小さな体をおおきくして客席にハスキーな声を投げかけてくる綾戸さんはたしかにそこに存在しているのだろうが、どう言えばいいのだろう、綾戸さんの「ワタシ」はそこにいないような気がするのである。

 その消え方は、なにに似ているかと言えば、こどもが事故に遭った瞬間に道路に跳びだしていく「おかあさん」のようなものなのかもしれない。きっとそのときに、その母親から出てくる叫び声は綾戸さんの歌のようなんだと、ぼくは想像する。

 「ワタシ」が思いっきり表現できる歌の世界にいながら、ワタシが消えていくという不可思議にも思える矛盾を、綾戸さんのステージでは味わえる。「わたしは、歌っているときには綾戸でも綾戸でなくても、かまわへんのよ」なんてことを、ひょっとしたら彼女は言いそうな気もしている。

 築地のスタジオ「音響ハウス」のレコーディングを見学する機会を得たとき、ぼくはその「消える綾戸智恵」のことなんかすっかり忘れていた。

 とにかく「ちーぼーのレコーディングは早い」

という話は聴いていた。美空ひばりさんが、「録音は一回だけ、一応押さえとしてもう1回歌う」という噂も耳にしていたが、それはぼくにとっては神話のようなもので、実際に一発OKの録音なんて、考えられないものだった。ぼくは綾戸さんのレコーディングが一発ですんでしまうという話を聞いたときに「スタジオ代が安くすむから、一年に5枚くらいレコードが出せますね」と軽口を叩いていた。信じてないというわけではないが、録音が一回ですんでしまうということは、曲芸のような範囲の驚きであって、5回歌入れをしようが7回歌おうが、「一発録りのようなもの」なんだと考えていた。

 その日の録音は、おおぜいのクワイアーとのセッションだったので、美空ひばりのようなわけにはいかない。なにせ、いくら歌に自信があっても、クワイアーのメンバーは素人なのだ。しかも、金魚鉢の中の綾戸さんはボーカリストというよりはクワイアーの指導に、ほとんどすべての労力を傾注している。「へたでええんや。へたなんやから」ほんとうにへたな男性にそういったとたんに、その直後にへたな男性は「すばらしいへた」に、魔法にかかったように変身した。「ひとびとの歌声」という役回りのクワイアーたちが、綾戸さんのアドバイスを受けるたびに、いのちを吹きこまれたかのように活気づいていく。何度くらい録音したのだろうか。テープは、この場そのものを記録していく。

 ずっと静かに見学していたぼくは、急にあることに気が付いた。

「綾戸智恵は、じぶんの歌うボーカルについて、なにも考えていないようだ」。

クワイアーへのアドバイスが終わると、すぐにピアノの前に座る。そしてすぐに歌いはじめる。歌っている間も、歌っているというより、クワイアーの歌声を聞くことのほうに重心をかけているように思える。じぶんの歌のことなんか考えてもいないように見えている綾戸さんのボーカルが、ミキサーの周囲に集まっているぼくらの胸を痛いほど突いてくる。なんだ、これは!?

 また、ここでも「綾戸智恵が消えている」。綾戸智恵は、もしかすると、天から降ってくるなにかを受けとめて放射するだけの「容れもの」のような人なのではないか。ほんとは歌を歌っていない時の綾戸さんだけが、人間で、歌っているときのあの人は、ほんとは、もともといない人間なのかもしれない。

糸井重里

綾戸智恵4thアルバム「Friends」(Re- Master)

2020.05.29よりストリーミング・スタート!

ディープな曲はより深く、スリリングな曲はより先鋭的に。ジャズやポップス、ロックからフォルクローレまで綾戸流に歌い上げる。若いメンバーと自由に作り上げた野心作。各配信サイトで配信中!

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