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還暦バンザイ!

by 綾戸智恵

下諏訪からの帰り、特急あずさの車中。

「お!ごめんよ、おじちゃんここの窓側だ、ごめんね」

座っていた男の子が使っていた折りたたみテーブルをしまうと75歳位のおっちゃんが”はぁ、よっこらしょい”と奥の窓側の席に座った。わたしの前の席。すかさず車内販売員が売りに来る。おっちゃんはお酒とツマミを3つずつ買った。けっこう酔ってるのみたいやのにまだ飲むんか!と思って見ていると隣の子供に話しかけた始めた。
「今日ね、納骨したんだよ、姉をね。ちょっと酔っ払いのおじちゃんやけどこれ後の席に持っていきたいんでゴメンね、また通してくれる?」
「はい」
「ごめんよ」
酒とツマミのセットを2つ持って赤い顔のおっちゃんが車両の後方へ歩いてゆく。少しして戻ってきた。
「またまたごめんよ」
並びの席に座っている男の子の妹が興味津々でおっちゃんを見てる。なんか笑えるんや。
「お前たちのお母さんはどこだ?」
優しく聞くと男の子は”新宿に迎えに来ます”と答えた。
「お!兄弟だけで旅かよ、偉いなあ」
「名前は?いくつ?」
と兄弟みんなにたずね、もう親戚の叔父ちゃんみたいにしゃべり続ける。でも子どもたちには”うぜー”とか”ジジイーなにすんだよ”とかいった様子は全くなく、それどころかこのおっちゃんの言葉を面白そうに聞いている(子どもたちだけではなくわたしもだったけど)。

「若い時、会社をやめてな、会社は儲かってるのに俺たちの分け前がぜんぜん少なくてさ、ケンカしてやめたんだよ。幸せはみんなで分けるんだよ。一人だけ儲けるようなこと考えるとほんとに一人ぼっちになっちゃうからな。いいなあ10歳か、オレもそんな時あったなあ」
「・・・・・・」
子供もなんか言ってるんだけど声が小さくてわたしにはおっちゃんの声しか聞こえへん。
「そうか、お前はいいやつだなあ」
おっちゃんはとにかく子供をノセるのが上手い。たまにおっちゃんが言う。
「ダンケシェーン!」
え?ドイツ語?
「・・・・・・」
子供聞こえないけどなんか言ってる。
「イエース、そうだよ。オレ学校でドイツ語勉強して、昔は今よりしゃべっててうまかったんだけれど、使わないから下手になっちゃった、ワッハッハ。お前たちは勉強したことを毎日復習して自慢できるものにしなきゃ、オレみたいにダンケシェーンだけじゃ駄目だからな、いいか」
「おい、なんかお菓子食べるか?」。
子供は”大丈夫ですありがとう”とでも言ったのか、おっちゃんが続ける。
「お前えらいなぁ。俺なんか10歳ぐらいの頃はそんなこと言われたら、買って!買って!なんて言ってたよ。お母さんの教育がイイんだ。でも時代もあるなぁ、変なおじさんに突然言われてもなぁ。それに今はなんでも物が溢れてるし腹がへる前に食べれるしな。でも知恵は困ったときに働くんだよ。たまには周り気にせず突っ走って苦労するのもイイよぉ〜。おじちゃんはもう親孝行どころか迷惑かける親もいないし、姉もいなくなっちやったしなあ。お前たち、いいなぁ」

子供たちはおちゃんの言葉をどう感じたんやろうか。

おっちゃん、若い頃のはなし、戦争や結婚や会社やいろいろなことを子供たちに話す。
「今は2時間で東京に着いちゃうけど汽車の頃は5時間もかかったよ。車内販売とかなくて各駅でホームにお弁当とかお茶を売る人がいるから窓を開けて買うんだ、楽しいよ~」
子どもたちは目を丸々させて聞いていた。東京までの2時間はおっちゃんにも子供たちにもあっという間やったはずや。なんせわたしがそう感じた。降りる時、男の子は「おじさん、ありがとう」と言ったように聞こえた。声は小さかったけど元気に手を振ってお辞儀をした。おっちゃんは「いいなあ、お母さん迎えに来てるのか、早く大きくなれよ」と言った。

これは素晴らしい体験やった。わたしにあらためて時(とき)の素晴らしさを教えてくれた。おっちゃんが子供に何度も「若くて、いいなあ」と言ってたけど、子供もおっちゃんの若い頃を”いいなあ”と思っていたに違いない。だからこそあんなに目をキラキラさせて聞いていたんだと思う。おっちゃんの話には親子の関係や社会での不合理や学びの真理や今の時代の見方やいろんなものが入っていた。いつか親とも兄弟とも別れる時が来る、これは絶対で生まれたもの全てがそう。だから今やることをやれ!頑張れ!お前たちいいなぁ、俺も頑張るよ、いくら小さくても君らに感謝してるよ!と言ってるように聞こえた。すごくいいなと思った。ふだんテレビなどで「お前やろ、」とか「お前なぁ」とかあまり好きでないことばを耳にする。でもこのおっちゃんからでる「おまえ、いいなぁ」はなんかすごく快かった。なんでやろー。

下車した時、子どもたちは待っていた母親に”ただいま!”とはっきり大きな声で言った。目が輝いてた。おっちゃんの話を聞いて間違いなく子たちは育ったんだと思う。子供を育てるのは親や先生だけではない。道すがらの他人であっても歳を重ねた人の言葉は子供が大きく成長するための何よりもの教材やと思う。高齢者の実力、これやと思う。足腰が弱くなり、介護がいるようになっても、昨日までのたくさんの経験を話して欲しい。どんな教科書よりオモローやで。ろうにゃくにゃんにょがいての世界や。わたしもええ年やしいつかは逝くやろうけど、お墓の準備よりこれから先もっと意味ある日々を過ごせるための準備したい。
還暦バンザイ!高齢者、がんばれ!がんばろー。


レコーディング、終わってしまいましたー。楽しかったー。聴いてー。買うて-。



綾戸智恵
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