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恐怖の報酬

by 綾戸智恵

今週の映画は”え?これってわたしの生まれる前?”と思われる方がいるくらい、そんな昔の映画です。

恐怖の報酬(1952年フランス)

スタッフ監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 脚色:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 原作:ジョルジュ・アルノー 台詞:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 撮影:アルマン・ティラール セット:ルネ・ルヌー 音楽:ジョルジュ・オーリック 出演者:イブ・モンタン、シャルル・バネル、ベラ・クルーゾー、フォルコ・ルリ、ペーター・バン・アイク 原題:The Wages of Fear Le Salaire de la Peur 製作年:1952年 製作国:フランス

皆さん主演のイブ・モンタンって知ってますか?新しいお菓子の名前やないですよ。わたしにとってはシャンソン歌手、そうあの”枯れ葉”を歌って有名になった人、というイメージが強かったんですが、実は1952年のこの映画で主演してます。俳優さんだったんですね。私は小学校になってすぐくらいにこの映画をリバイバル上映で見ました。父親と母親が”ええ映画やで、見ときや”とゆうたんです。今思うに座頭市みたいな映画かなあ。

これはフランス映画ですが、舞台は南米ベネズエラ。町から500kmの場所にある油田で大火事が起こる。鎮火するには当時は爆発物のニトログリセリンを使うしか方法が無かった。今じゃ色んな方法がありますが、この時代ではこれが一番ベストなやり方、ということになってトラックでニトログリセリンを現場に運ぶことに。一滴落としても爆発してしまうという爆薬を安全装置のないトラックに積んで、そんなもんで道路走られたらたまりませんよね。そんな映画でした。今だったら恐怖のシーン、爆発とかを大フィーチャーするんでしょうが、この映画は爆発を見せる映画ではありません。そもそもまだCGとかない時代、爆発といっても実際の小さな爆発をなんとか大きく見せるしか技術がなかった時代の映画ですからやろうとしても大したこと出来ません。この映画はそんな爆発シーンの恐怖とかではなく、命をかけて怖いニトログリセリンを運んだ四人の男たちの人生背景を見せたかったのではないでしょうか。

この四人は揃ってどうにも這い上がれないうだつのあがらない人生を送る男たち。でもそれぞれに個性があり天真爛漫なヤツ、いつも荒くれたヤツ、いつも沈んだヤツ、とさまざま。それをこの映画はまず最初で眠たくなるほど見せます。でも見終わってからこのシーンが肝心だったんだと初めて分かりました。爆発するような危ないものを、もちろん高い報酬があるからこそ受けた仕事だと思います。危険と背中合わせ。皆さんも想像すると思いますが、二台のトラックの内一台は爆破して二人が死んでしまい、一人も事故で死んで、最後は一人だけ残るというストーリーとしてはよくある映画。最後に残ったんはシャンソン歌うイブ・モンタンが演じる男、彼は報酬をたった一人もらいました。ちょっとした油断・過信・不注意で死んでしまった三人。でも最後に報酬を得た彼はもっとしくじってしまいます。ニトログリセリンで死ぬのではなく、報酬をもらって浮かれポンチになって死んででしまう。ニトロもなにも積んでいない、パリへ帰ろうとする家路につく自分のトラックで運転を誤って死んでしまいます。目を大きく見開いてがけから転落する彼の顔は”ああ”という失望感。最初は注意しながら運んでいたのに時間が立つにつれてどんどんとオーソリティーになっていき、慣れというか、ダイジョブだと言いながら死んでしまう。それは生まれたものはいつかは死ぬということを言ってんの?いやいやいこの映画はもっと大きい。人生の中では殺されるようなことが起こる可能性がいつもある。常に危険と隣り合わせ、生きるということのリスクを見せてくれる映画だと思います。

この映画はどんな人生を歩んできたというところから生きるリスクを語っていきます。ただのサバイバル映画ではなく、死ぬというところに着眼点を置くのではなく、どんな風に生きている、どんな風に生きていく。ニトログリセリンの恐怖やその大きさは変わりません。映画の最初から最後までニトロはニトロです。なのにそれを扱う人間が、恐怖と一日付き合ううちに恐怖を舐めていく、これで死という大きなリスクを背負ってしまった。恐怖が死の原因ではなかった。彼らはニトロで死んだのではなく自分に負けたのかもしれません。それだけに最初の一時間、彼ら四人の酒を飲んだり喋ったりするシーンでの人生観が大きい意味を持ってくる映画。とてもブログだけでは言い尽せない、言い足りない映画です。ぜひ、見て欲しいと思います。

あ、それと追伸。この映画は70年台にリメイクされましたが、嫌だとは言いません。嫌いだともダメだとも言いません。でもわたしの好みからは・・・、すんません。雲泥の差があるようにしか思えないのですが、わたしだけでしょうか。古い人間なんでしょうね。それと、最初にちょっとふれた座頭市、たけし監督の作品で最後にポッと目が開いてつまずいてひっくり返るシーンがあります。それ見て”あ!恐怖の報酬や”と。彼のおかげで何十年も前に見たこの映画を思い出しました。

レコーディング進行中!!まだまだ働くアヤドさん。



綾戸智恵
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